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大量発生しているツヤアオカメムシの生態と対策の解説【2023年9月-】

2024.04.24

いま、阪神間でたくさんみかける、緑色のカメムシ:ツヤアオカメムシについて解説します。

写真のカメムシたちは、おもに阪神間の平地でよくみられる種です(アオクサカメムシは少ない)。どれも可愛らしいですね。
このうち、いま現在(2023年9月下旬)に各地で大発生しているカメムシはツヤアオカメムシ(写真左上)という種です。

他にもよく見るカメムシとは、あざやかな緑色でツヤがあることで見分けられます(ミナミアオカメムシやアオクサカメムシはツヤがない)。

ツヤアオカメムシは夏に山のスギやヒノキの実を吸って繁殖します。増えた成虫は、9月中下旬以降の秋になると、山からいろんな方向に向かって分散します。

いま、市街地などでもみられるツヤアオカメムシは、発生地の山から分散した個体です。


光に集まる習性があるので、街灯や建物の照明に集中します。照明のまわりについたカメムシは、飛び回ったり歩き回ったりするうち、周辺の出入口や窓から家屋内に侵入することがあります。
より強い光により多く集まるので、建物の入口や窓、集合住宅の廊下などは、消してもよい照明を落とすなどして光量を下げるとカメムシの誘因数を減らすことができます。

 

カメムシは刺激しなければにおいを出すことはありません。

室内に入ってきたカメムシは、底を切ったペットボトルの中にそっと追い込み、外に放り出すことをおすすめします。

以下、ツヤアオカメムシについてのQ&Aです。

Q: 今年は特別多いの?その理由は?

A: みなさんご覧のとおり、多いです。

夏に山で繁殖する際の餌となるスギやヒノキの実が多かったのではないかと思われますが、それ以外の要因についてはわかりません。
カメムシをふくめ、昆虫は年によって発生量に波があります。顕著に多い年もあれば、少なく目立たない年もあります。筆者の感覚では、過去は2017-2019年あたりは毎年多めに発生していたように感じましたが、2023年はそれ以上と思います。

繁殖についてのより詳しいデータは、各都道府県の病害虫防除所の方がよくご存じです。

 

Q: 地球温暖化や異常気象の影響で多いの?

A: わかりません。

 

Q: 果樹や農作物への被害は?

A: 成虫は実のなる植物であれば、広い分類群にわたって吸汁摂食します。カキやミカンなどの果樹や農作物も加害します。具体的な被害の状況は、各都道府県の病害虫防除所の方がよくご存じです。

 

Q: 都市部に集中する理由は?

A: 光に集まる習性があるので、都市部をめがけて山から飛んできている可能性はありますが、実はいろんな方向に飛んでいっています。都市部でないところでも、照明のある場所(コンビニ・駅・高速道路のサービスエリアなど)などでもたくさんみられます。また、都市部でも強い光のある建物のまわりに集中し、人目につくことが多いので、話題にもなりやすいものと思われます。

 

Q: カメムシはなんでくさいの?

A: カメムシのにおいはアルデヒド類を主成分とした化学物質の混合物で出来ています。強い臭気と刺激性があります。カメムシは脚の付け根にある臭腺開口域という穴からこのにおい物質を放出します。ずっとにおいを出し続けているわけではなく、外敵に攻撃を受けたときに身を守るために出します。過度に刺激をしなければ、においを出されることはありません。

 

Q: カメムシは自分の出したにおいで死ぬって本当?

A: 密閉容器の中などに入れたカメムシは、その中で自分の出したにおいが高濃度の気体となると、死んでしまうことがあります。いっぽう、自然下ではそのような密閉された空間に入り込む状況はほぼありません。自分の出したにおいで死ぬ機会は自然下ではほぼないと考えられます。
この質問は、印象深い話題なので、よく訊かれます。「自分のにおいで死ぬ=愚かな虫」という短絡的な結論が印象づけられ、噂としてひろまっているのが残念なところです。メディアなどで取り上げる際は、丁寧に説明してもらいたいです。

 

Q: 光に集まるカメムシについて、もう少し詳しく教えて

A: 

[夜間の照明に集まるカメムシ対策の検索表]
 
明かりにカメムシが・・・
【1】いない >>> 何もする必要はありません
いる>>>【2】へ
【2】カメムシはいるが、特に困っていない>>> 何もする必要はありません
困っている>>>【3】へ
【3】照明は消灯もしくは減光することが可能 >>>消灯もしくは減光してください
照明を消灯もしくは減光することは出来ない>>>下の解説をご覧ください
 
 ツヤアオカメムシは、夜間に光に強く誘因されます。特に強い紫外線を出す照明に多く集まります。
 照明器具による紫外線の光量を大雑把に言うと、水銀灯>蛍光灯>LED(ただし製品によってはカメムシや昆虫が誘因されるものもある)です。
 光量を落とすことが出来ない場所での照明を、昆虫を誘因しないLEDに交換することは、カメムシの光誘因対策としておすすめです。
 

Q: カメムシのにおいがついたらどうしたらいいの?

A: におい物質は揮発・分解するので、基本的には時間が解決してくれます。衣服についた時は普通に洗濯すれば消えます。手についたら、何度も洗えば消えます。におい物質にはアルコールに溶けやすい成分があるので、消毒用アルコールをつけてもみもみしてから、石鹸で水洗いすると、いくぶん早くにおいを落とすことができるかもしれません。におい物質は刺激性があるので、痛みを感じたり、目に入るなどしたら病院へいくことをおすすめします。

 

Q: 洗濯物にカメムシがつくのが困るんだけど、どうしたらいいの?

A: 昼は日当たりの良い場所でひなたぼっこをすることがあって、外に干した洗濯物はカメムシがつきやすい条件のそろった場所です。カメムシがついていないかよく確かめて取り込みましょう。おすすめは、カメムシの多い時期だけでも部屋干しに切り替えることです。乾燥機のあるコインランドリーに行くのもよいかと思います。

 

Q: このツヤアオカメムシたちはこれからどうなるの?

A: 予想でしかありませんが、照明に集まっている個体は、踏まれるなり焼け死ぬなりで消耗するので、波はあるものの徐々に減っていくものと思われます。また、ツヤアオカメムシは気温の低い日は活動量が低下します。これから気温が下がって行くにつれて、照明に集まる数は減っていくものと思われます。照明に集まらなくなっても、生き残ったツヤアオカメムシたちはその周辺で冬越しをします。今年の冬は、うっすらとカメムシが目につくのが街の風景となるかもしれません。

 

Q: 2024年の春にもツヤアオカメムシが街にたくさんいる。原因は?秋も去年と同じく大量発生するの? [2024年4月24日追記]

A:  去年(2023年)の秋にツヤアオカメムシが大量発生したのはみなさんご存じの通りです。
 それらが越冬を明けて再活動しているので、目立つのだと思います。ただし、全ての個体が越冬に成功するのではなく、冬のうちに力尽きるものも少なからずいますので、去年の秋ほどの数とはなりません。
 越冬に成功したこれらの個体は、ほどなく山に飛んで行き、産卵をしたのちに死にます。
 夏の間に、卵から孵った幼虫が、山のスギやヒノキの実で育つ数が多ければ、今年の秋も大発生します。
 いっぽう、スギ・ヒノキの実は年によって多寡があります。実が少なければ育つ幼虫も限られますので、発生量は少なくなります。
 他にも、カメムシの発生量は気象状況等の条件が複雑にからむので、予想をすることは難しいです。

 

Q: ツヤアオカメムシの寿命は?

A: いまみられる成虫たちは、冬越しをしてから来春に繁殖地となる山に飛んでいき、交尾・産卵をしてから寿命をむかえます。

 

Q: ツヤアオカメムシはどこで冬越しをするの?

A: ツヤアオカメムシは、生木の葉裏やそこらへんの隙間にもぐりこんで越冬します。街の中でも、街路樹や生け垣の植物の葉について冬を越します。冬でもあたたかい日は飛ぶなどして活動することがあります。今年の冬は街の中でもなんかうっすらとツヤアオカメムシがいる景色をみることになるかもしれません。

 

Q: ツヤアオカメムシと、家に入ってくる茶色いカメムシとはちがうやつ?

A: たぶんそれはクサギカメムシです。美しい微細な色彩の姿とは裏腹に、家屋内侵入の事例の多いカメムシです。夏にヒノキやスギの実を食べて繁殖するところはツヤアオカメムシと似た生態をしていますが、人里に降りて家屋内侵入をする理由は「越冬場所を探すため」で、目立つ時期は10-11月です。都市部よりも、山間部で多くみられます。

Q: カメムシが大量発生した年は大雪になるってほんと?

A: 科学的根拠はないです。大雪になることもあれば雪が少ないこともあります。
 ※大量発生と家屋侵入の代表種といえるクサギカメムシでは、大雪との関係は否定されています(渡辺, 2021.)。スコットカメムシという種で大雪と発生量の相関関係が多少みられたとされていますが、強く関係するというほどではないです。。

 

Q: カメムシは絶滅させたほうがいいんじゃないの?

A: 絶滅させると、カメムシを餌にする生きものや、カメムシが摂食することで発生の抑えられていた植物が減ったり増えすぎたりと、生態系への影響があります。カメムシに限らず、絶滅してよい生きものなんていないのです。

 

Q: なんでカメムシを研究しているの?

A: 筆者は高校生の頃(1995年)に、クサギカメムシの大発生を経験しました。カメムシどころか昆虫が大嫌いだった私は、カメムシ恐怖症に陥りました。カメムシを絶滅させる農薬を作る研究をしようと東京農業大学農学部に進学しましたが、カメムシについて勉強するうち、その魅力にとりつかれました。いまは絶滅させることはやめ、カメムシをはじめとする昆虫の多様性について興味を持っています。

 

その他、カメムシについての一般的な解説は、いたこんニュース第22号 特集 カメムシだらけにしたろかー!(PDF)をご覧ください。

 

解説:長島聖大(ながしま せいだい 伊丹市昆虫館 学芸員)

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